第一章:獣人の里で暮らす

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 元から自分は、一人でいるほうが好きなので、きっと狼の血がそうさせているのだと思う。それでも、学校では多くの友人に囲まれ、それなりに楽しく過ごしていた。けれど、自分が獣人だとわかった瞬間に、彼らは手のひらを返したように態度を急変させた。もとから狼家系であることは伝えてなかったにしろ、容姿が変わったからといって、あまりにもあからさまだった。それに加えて、狼の姿になってあんな騒ぎを起こしたのだから、無理もない。  あの日の記憶がないからといって、苦しんでいないわけではない。状況から見ても、目撃者の証言からも、友人やクラスメイトを傷つけたのは自分だと明らかだった。記憶もなければ、自分の意志もなかった。そんな状況で謝罪したところで、誰が受け入れてくれようか。そんな煌牙の心情を誰も理解しようとしてくれなかった。学校も、厄介者を追い払うかのような扱いだったのだから。  誰もがまず最初に保身のことを考える。人間とは、そういう生き物だということを改めて思い知らされた。 ――つい最近まで、自分だって人間だったのに。  獣人が珍しい存在ではないとはいえ、町中で獣の耳や尾を生やしている人間とすれ違えば、誰もが振り返る。煌牙も今まで、そうだった。そして、あれ以来、自分に対して周囲の目がどこか蔑んだような眼差しをむけてくる。中途半端に獣を残してしまったこの姿は、なぜかひどく社会的地位の低い存在だと決めつけられている気がして、プライドが傷ついた。  孤高の狼の血が、より一層惨めにさせてしまうなんて、皮肉以外の何物でもなかった。
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