第一章:獣人の里で暮らす

7/9

924人が本棚に入れています
本棚に追加
/204ページ
***  クロと一緒に、家の裏側へまわると、車一台くらいしか通れなさそうな、舗装されていないあぜ道があり、その脇にはフェンスが張られていて、向こう側には森が生い茂っていた。新緑と雑草と、様々な緑が交差する典型的な田舎の風景を、煌牙はぼんやりと眺めながら歩いていた。  夏が終わって秋の訪れを感じ始める九月。  新学期が始まってすぐに転校をすることになるなんて、夏の始めには思いもしなかった。高校三年の夏休み、秋からは系列の大学の推薦入試のために勉強しなければいけなかったので、思い切りハメを外した。クラスの友達とプールに行ったり、夏祭りにも行った。そして、夏を楽しく過ごした友人たちと、絶縁状態になるなんて思ってもみなかった。こうして、自分に狼の耳としっぽが生えることも、田舎で犬と一緒に歩くなんてことも。  自分とこの一匹は、傍からどう見えているのだろうか。人間ならただの犬の散歩で済むが、半分人間で半分狼の容姿である自分が、犬を散歩させているなんて、おかしな光景だ。気分の曇る煌牙にお構いなく、クロは茶色の尻尾を揺らしながら、まっすぐ歩いていた。 「おまえはいいよな、完璧な犬で」  クロに声をかけると、言葉が通じているのか、クロは耳をぴくりと震わせて、煌牙を見上げた。 「こんな中途半端な格好じゃなくてさ、いっそ狼になっちまえばよかったんだ」  犬相手に通じるわけがないのに、煌牙は言葉を続ける。 「おまえだって、気色悪いだろ。こんな中途半端な生き物が隣にいてさ」  煌牙は意図的に、自分の銀色の尻尾を揺らしてみせた。クロはじっと煌牙を見つめていたが、やはり興味がないのか、ふい、とすぐに前を向いた。 「なんだよ、冷たいな」  クロは人間と違って、中途半端に甘い言葉をかけてくるわけでもなく、かといって好奇の目を向けてくるわけでもない。自分にまったく興味を示さない態度が、かえって煌牙にとっては新鮮に感じ、思わず頬が緩む。煌牙がどう思おうと、きっとクロは無関心なのだ。いっそ、そのほうがいい。自分に興味を持たないでくれたほうが、ずっといい。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

924人が本棚に入れています
本棚に追加