第三章:屈服。

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第三章:屈服。

「煌牙くん、これ」 昼休みになり、鹿賀が煌牙の机にそっと購買で買ったミックスサンドを置いて行く。 「ごくろうさん。これ代金な」 そして煌牙は鹿賀の手のひらに三百円を渡す。 「野菜ジュース、ここに置いておくね」 「ああ」  今度は、他のクラスメイトが煌牙の机にパックのジュースを置いて行くので、同じように手持ちの百円を渡す。  鹿賀をはじめとして、クラスの連中は、煌牙からパシリのような買い物に行かされても拒否する者はいなかった。  最近の煌牙は、このようにクラスメイトに昼食を買いに行かせて自分の席で食べていた。 『この教室の中で、狼である俺が絶対に偉いんだ。覚えておけ』  煌牙が宣言してから、クラスメイトの煌牙を見る目が変わった。  あの日から二週間が経過して、フレンドリーだったクラスメイトは煌牙近づくことはなく遠巻きに見るようになった。  それに加えて、煌牙は学校ではひたすら自主的に勉強をしていて、話しかけにくいオーラを放っていた。  以前は、生徒たちの笑い声と話し声で活気にあふれていた教室だったが、最近はとても静かだ。  一度、煌牙が「おまえら、うるさい」と一蹴したせいだろう。 『俺が狼になったら、おまえなんて食い殺しちまうぞ』  あの脅し文句は、かなり利いたのだと思う。  実際、煌牙は自力でこの姿以上に、狼にはなれない。すなわち、狼に変身することもなければ、半分狼でも、中身は人間なので動物を食い殺すことなんてできそうもないし、したくもない。  もともと狼の尻尾も耳も生えていなかった頃も、喧嘩をしたこともないし、誰かに暴力をふるったこともない。  これは要するに、はったりというやつだ。思い込ませた者の勝ちなのだ。現に、クラスメイトは煌牙を恐れ、煌牙の言うことを聞いている。  さいわい、このクラスに肉食動物の獣人はいない。せいぜい狼に近いのは犬くらいなものだ。  学校にいても、自分より強い獣の匂いを感じることはないので、自分のはったりがばれたとしても、この命が脅かされることもない。  すなわち、このクラスの食物連鎖的ヒエラルキーは、煌牙が頂点であるということになる。
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