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どうやら真一の言い訳を珠緒は信じたらしい。その事に驚いたのは真一自身だった。
真一を引きずる珠緒はトイレを通り過ぎ、リビングも通り過ぎる。
そして寝室まで戻ってきた。
「はあ――はあ――ちょっと待ってね」
肩で息をしながらそう言うと、珠緒は一旦リビングに戻っていった。
再び戻ってきた時にはその手にペットボトルとハサミを持っていた。
「動かないでね」
そう言うと珠緒は真一のズボンを、正に股間部分を摘まんだ。この状況で動こうと思う男が居るだろうか。
ジョキ――ジョキ――と音が響く。
真一は自分の股間が露出した事を感じた。
――そこに大きなペットボトルが当てられる。
(ま――まさか)
「終わったら呼んでね」
そう言って珠緒は真一に背を向け、リビングへと戻って行った。
真一は羞恥心と屈辱感でとうとう怒りを爆発させた。
「ふざけるなっ、このイカれ女! さっさとこのロープをほどきやがれ! こんな事してただで済むと思うなよ。絶対ぶっ殺してやるからな!」
真一が考え付く悪態を叫んだ。
すると珠緒がリビングから顔を出した。もうその顔に微笑みは無かった。
「静かにして。ななみちゃんが起きちゃうでしょ」
寝室に入って来た珠緒の手には、ガムテープが握られていた。
珠緒は真一に股がると、ガムテープを真一の口に貼り付ける。
真一の耳元でガムテープを切る音が聞こえた。
「突然の事でまだ混乱しているのね――良いわよ。落ち着くまで、私は待ってるから」
珠緒は再び微笑むと子供の添い寝に戻った。
真一はその後も叫び続けたが、その言葉は珠緒に届く事はなかった。
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