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「ありがとう、美味しかったよ――なんか懐かしい味だった」
「嬉しい――昔も良く作ってあげたもんね。明日も頑張って作るから」
「――あぁ、お願いするよ」
そう答えながら、真一の頭の中では『明日も』と言う言葉がこだましていた。
真一は笑顔を崩さないように口元に力を入れる。
珠緒はまた子供にミルクを与え始めた。やはりミルクは減らないが珠緒は気にしていない。
真一は珠緒の信頼を得る為、会話すべきだと思った。
何を言えばいいのか分からず、とりあえず頭に浮かんだ事を口に出した。
「――ずっと一人で育ててきたのか?」
「最初は母さんを頼って実家に帰ったんだけど――でも母さんは私からななみちゃんを奪おうとするの。だから実家を出て、それからずっと一人で育ててきたわ」
「――そっか、苦労かけたね。これからは三人で頑張っていこう」
「良かった。ななみちゃんも喜んでるわ」
「――それじゃあこれからはもっと頑張って稼いでこないとな」
「あなたはそんな事しなくて良いの。ただずっと家に居てくれればそれで良いわ」
「でもお金はどうするんだ? その――ななみちゃんにもミルクを買ってあげないといけないだろ?」
「お金は母さんに送って貰うから心配しないで。それ位やってもらわなきゃ困るわ。本当に」
珠緒はリビングを歩き回りながらブツブツと言っている。
「そう――なんか悪いね」
真一は声に動揺が現れないように気を付けた。
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