第六章 二日目

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「もうすぐご飯よ」  真一が目を覚ますと珠緒が覗き込んでいた。夢の続きかと思い、ハッと息を飲んだ。 「すぐ持ってくるから待ってて」  珠緒はキッチンへ戻ると食事を運んできた。  真一は珠緒に上半身を起こされると身体中が痛んだ。  ずっと寝返りも打てず、ずっと同じ姿勢だったこと。そしてロープが擦れて皮が剥けてしまったことが原因だ。  真一は痛みに耐えて食事をする。  珠緒の機嫌を損ねないためと、いざという時に備えるためだ。  食事が終わると真一は礼を言った。  そして、子供にミルクを与え始める珠緒に真一は珠緒に話かけた。  何を話したか、真一が後になって思い出そうとしても思い出せなかった。  ただ珠緒の信頼を勝ち得ようと、油断させようと必死だった。  良き友人であり、良き恋人であり、良き父であるふりをした。  珠緒に共感し、思い出話をし、冗談も言った。  珠緒はミルクを与え終わり、笑う姿を見て真一はもう一歩踏み出す決意をする。 「なぁ――お願いしても良いかな?」  珠緒は子供を抱きながら真一の所まで来た。今のところその表情に疑いはない。 「もし良かったら、子供を抱かせて貰えないか?」  一瞬珠緒の表情が固くなった。
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