第六章 二日目

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「いや、良かったらなんだけどさ。その――抱っこさせてくれないか? 今更父親面って訳じゃないけど。ただ一度、この手で抱いてみたいなって思ってさ」  珠緒の瞳には、まだ疑いの色が浮かんでいる。  真一の顔は熱くなり、全身からは汗が噴き出してきた。  それでもポーカーフェイスは崩さないよう、真一は全ての神経を顔面に集中させた。 「ゴメン。そんな事お願い出来る立場じゃないよね。今まで――その――情けない奴だったから。俺って。ただ、男は初めて子供を抱っこした時に父性が目覚めるってのを思い出してさ」  真一は少し俯いて見せる。  しかしその表情は強張ったまま、動かし方を忘れてしまった様な状態だった。  それがでも珠緒には物悲し気に映った。  珠緒は少し悩んでから、真一のロープをほどきにかかった。  それを真一は笑顔で待った。今度は笑顔になり過ぎないように注意しつつ。
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