第六章 二日目

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「――ありがとう」  珠緒が解いてくれたのは上半身の部分だけ。  まだ完全に真一の事は信頼していないからだろう。  だが珠緒の中に期待があるのは確かだった。  本当に真一が心を入れ替え、これからななみと三人で幸せな家庭を築けるかもしれないという期待が。  真一はロープの跡をさする。やはり皮が剥け血が滲んでいた。  真一が両手を差し出す。  もう真一に自分が今どんな表情をしているか、気に掛ける余裕はなかった。  のるかそるか。是か否か。  急にこのチャンスにかける事が大穴にかける様な物に思えてきた。  行き当たりばったりだが、もしこの手にななみを、珠緒の弱点を手中に納められれば、何か変わるかもしれない。  真一の葛藤を知る由もなく、珠緒は子供を抱いて真一の隣に座った。 「ななみちゃんも喜ぶわ。でもミルクの後だから気を付けてね」  珠緒は子供を真一に差し出す。  真一はそれを見ると喉がつまり、胃がでんぐり返った。  珠緒が差し出した布の中には、黒っぽい小さな物があった。  目と口の所にポッカリと空いた穴が、かろうじて人の顔だと認識させる。 (――もう駄目だ。こいつは狂ってる)  真一の中でカチリと音をたてて何かのスイッチが入った。
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