第六章 二日目

8/9
前へ
/69ページ
次へ
 玄関扉は依然と同様、ガムテープだらけだった。それでも一つ一つ剥がす時間が真一にはない。  真一はガムテープで固められたドアノブを両手で力一杯回した。  ベリッと音をたててドアノブのガムテープが剥がれると、真一はドアに体当たりした。  今度はガチャンと金属音が響く。 (クソッ! 鍵だ、鍵が掛かっているんだ)  真一は鍵のツマミに手を伸ばす。だがそこもガムテープでベッタリ貼ってあった。  ガムテープを破り取り、解錠する。  真一が振り向くと珠緒が壁づたいに歩いてくるのが見えた。  顎の下から血の滴が垂らしながら。  真一は二度の体当たりでドアを開けると、真一は廊下へと転がり出た。  珠緒は手を伸ばし、その足取りも強く近づいてきている。  珠緒がすぐそこまで迫った時、真一は倒れたまま、力一杯ドアを蹴り閉めた。  珠緒の額を更に割る音が響く。真一は立ち上がると階段へと急いだ。  ドアの開く音が後ろから聞こえた。  真一の背筋に寒いものが走る。  真一は振り返らず、階段を駆け降りる。  ペタペタと真一を追いかけてくる裸足の足音が聞こえた。  真一はこれほどこのマンションの階段が長いと感じた事は今までなかった。  珠緒の足音は反響し、二人の距離感を狂わせる。  真一は叫びたい気持ちを必死でこらえ、マンションの外玄関の扉を開いた。  錆び始めている蝶番がキイとなり、手を離せばガンっと聞きなれた音をたてて閉まる。  真一は速度を緩めずそのまま走り続ける。  すぐにもう一度、外玄関が開く音が聞こえた。  真一は振り返らなかった。振り返るまでもなかった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加