第二章 違和感

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 昨夜、真一は昔付き合っていた女性の夢を見た。  良くある若気の至り。ほとんどの夢がそうあるように、この夢もまた儚い蜃気楼のように真一の記憶から消えていってしまった。  それは真一にとって都合が良かった。あまり思い出したい記憶ではなかったから。  それから三日後、真一が帰宅するとまた違和感を感じた。  そして、今回はその原因が分かった気がした。  それは匂い。  ドアを開けた時、かすかに女性の匂いがしたのだ。  夢の事を覚えてなくても、一度掘り返された過去。  真一はすぐに昔の彼女を連想したが、すぐにその考えを振り払った。  (なが)()(たま)()。その昔、真一と同棲していたが、それは真一がこのマンションに住む前の話。別れて以来、会った事もなければ連絡した事もない。ここの住所を知っているハズがなかった。 (きっと誰かが玄関の前を通っただけだ。マンションなんだから、女がうちの前を通ったっておかしくないだろ?)  今度は部屋の中を注意深く見てみる。だが散らかり過ぎてやはり分からない。  TVのリモコン、食べ残しのカップラーメン、読みかけの雑誌、何も変わっていないと思う。それでも心の中で何かが引っ掛かっていた。 (――いや、気にする方が馬鹿げている)  真一はそう自分に言い聞かせた。だが真一の心は怪しんでいる。  だから何もせずには居られなかった。
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