第1話:探偵とトレンチコートとあたし

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「いやあ失敬失敬‥」 夏なのにトレンチコートに帽子を被った髭面の男が、入って来た。 「今日のコートに合う帽子が中々見つからなくてねぇ。どうだい似合っているかな?ははっ」 男は帽子を指さしながら笑っている。 「おっと、失礼。これをまず渡さなきゃ」 怪訝そうな顔がバレたのか、髭面の男は少し焦って懐からカードのようなものを差し出した 【探偵 立花 仁(タチバナ ジン)】 「私の名刺です。お嬢さん」 ニコリと男は微笑んだ。 「自画自賛する訳じゃないのだが、この辺りじゃ名探偵として結構有名でねぇ。だからさ、そんな不安そうな顔しないでくれたまえ。話だけだったら無料で相談も受け付けてるよ」 自信たっぷりの男、いや、立花の声は優しかった。 「おっと、うっかり大事なことを聞き忘れていたよ」 ゆっくりと、立花は尋ねる。 「コーヒーと紅茶どちらがお好みかな?お嬢さん」 立花の真剣な表情に、あたしは喉が乾いたことを思い出し、ポロッと答えてしまう。 「コーヒーです‥」 立花は満足そうに頷いた。 「気が合うねぇ。気に入ったよ」 そう言って立花はコーヒーを淹れるために席を立った。     
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