340人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやあ失敬失敬‥」
夏なのにトレンチコートに帽子を被った髭面の男が、入って来た。
「今日のコートに合う帽子が中々見つからなくてねぇ。どうだい似合っているかな?ははっ」
男は帽子を指さしながら笑っている。
「おっと、失礼。これをまず渡さなきゃ」
怪訝そうな顔がバレたのか、髭面の男は少し焦って懐からカードのようなものを差し出した
【探偵 立花 仁(タチバナ ジン)】
「私の名刺です。お嬢さん」
ニコリと男は微笑んだ。
「自画自賛する訳じゃないのだが、この辺りじゃ名探偵として結構有名でねぇ。だからさ、そんな不安そうな顔しないでくれたまえ。話だけだったら無料で相談も受け付けてるよ」
自信たっぷりの男、いや、立花の声は優しかった。
「おっと、うっかり大事なことを聞き忘れていたよ」
ゆっくりと、立花は尋ねる。
「コーヒーと紅茶どちらがお好みかな?お嬢さん」
立花の真剣な表情に、あたしは喉が乾いたことを思い出し、ポロッと答えてしまう。
「コーヒーです‥」
立花は満足そうに頷いた。
「気が合うねぇ。気に入ったよ」
そう言って立花はコーヒーを淹れるために席を立った。
最初のコメントを投稿しよう!