第12話:奥義とホテルとドレス

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国境で、入国手続きをしていると、初老の男が近づいてきた。 「もしかして、貴方は名探偵のミスタータチバナではありませんか?」 初老の男は興奮気味に話しかけた。 「いかにも、私が名探偵の立花 仁です。紳士殿、私に何か御用ですかな」 名探偵と呼ばれて気を良くしたのか、立花は上機嫌になった。 「いやぁ、ウチの娘がお主のファンでして‥。もしよろしければ、今夜開催する我が家のパーティーお越しいただけないでしょうか?」 初老の男は頭を下げる。 「もし、来てくだされば、私の経営するホテルのスイートルームにお泊りいただきたいのですが‥」 立花は、あたし達の顔をみてニヤリと笑った。 「すまないねぇ。有名人っていうのはこういうことが多いんだよ。あははは」 完全に調子に乗っていたので、あたし達は黙っていた。 「いやぁ、特別ですよ。特別。スイートルームに惹かれたわけじゃないんだが、ファンサービスも偶にはねぇ」 立花は終始笑顔だった。 「おおっそれでは‥」 初老の男も笑顔になる。 「お邪魔させて頂きましょう。この名探偵の立花に二言はありません。ふふっ」 立花は胸をドンと叩いて、約束をした。 「それでは、これは私のホテルまでの地図です。従業員には話しておきますので何なりと申し付けください。あと、パーティーは1階の会場で夜の8時から開催されます。名探偵にゲストに来て頂けるなんて、嬉しい限りです」 初老の男は丁寧に頭を下げて立ち去った。 「ちょっと、立花さん。あんな約束して大丈夫なんですか?」 あたしは、呆れてしまっていた。 「んっ。ああ、全く問題ないよ。どうせ、船は明日の昼になるまで出ないしねぇ。泊まる場所もまだ決めてなかったんだから。だってスイートルームだよ。スイートルーム」 立花は子供みたいにはしゃいでいた。 「先生はちやほやされることが大好きですから‥。涼子様諦めて下さいまし」 ニーナはため息をつきながら、あたしに説明した。 「ニーナさんも、苦労されてるんですね」 あたしはニーナの心労を察した。
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