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次の日
「行ってらっしゃい」
早朝にあたしは父を見送った。
「ちゃんと、勉強もするんだぞ。別に良い大学に行けって事じゃない。思考力を養うっていうのはだな‥」
何回も聞いた小言にウンザリしたあたしは、
「もう、分かってるって。それより時間大丈夫?早起きしたことも無駄になるよ」
父は、慌てて時計を見た。
「もうこんな時間じゃないか。涼子、それじゃあ行ってくるよ。あっ後お母さんの事なんだけど‥」
「えっ」
あたしは父の言葉を待った。でも‥
「まあ、帰ってからで良いか。一緒にまたアルバムでも見ながら話そう」
優しく微笑みながら父はまた言った
「それじゃあ行ってくるよ」
今思い出すと、父の顔は微笑んでいたが、眼光は今までになく強い意志が宿っていたように見えた。
帰ってきたら何を話すんだろう。
お土産買ってくれるかな?
他愛のないことを考えて、直ぐに3日経った。
父は帰って来なかった。連絡も無い。携帯に電話しても留守電に繋がるだけ。
流石に心配になって会社に電話してみた。
取次いで貰うと父の上司の平田部長が出てくれた。
そして、電話口から思いもよらない事が告げられる。
「出張?そんな話は無いよ。君のお父さんは今日まで有給休暇を取っていたからね」
父は確かに出張と言った。訳が分からないが、漠然と嫌な予感がした。
「こっちも休暇中に悪かったんだけど、昨日、仕事の事で電話してみたんだけど、今日になっても折り返しが無かったから変だと思ったんだ。雨宮くんは責任感のある人だからね。何か事故なんかに巻き込まれてなければいいんだけど」
電話の声が凄く遠く感じた。
「もしもし‥大丈夫かい?」
平田部長の声が小さく聞こえる。
「大丈夫です。もし、何か分かれば連絡いただけますか?すみません」
動揺しながら、必死に返事をした。
「無神経なことを言ってしまって、ごめんね。こっちからも連絡取ってみるから」
平田部長の声もあたしにはあまり届いていなかった。
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