さよちゃん

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さよちゃん

今、私は、窓の外の青い空と白い雲を追いかけるように飛び交う緑の中で揺れている。 新幹線の中よりは、緩やかな流れではあるが、確実に色濃い夏に向かって、その電車は走り続けた。 その景色は、私を郷愁に誘い、そして、小さな痛みを与える。 こんな時にしか、帰郷しない自分の身勝手さと、一人待つ母への申し訳なさと。 一年前は、忙しさを理由に帰郷しなかった。 たぶん、帰郷しようと思えばできたのかもしれない。 母とは、何かとそりが合わなかった。 父が死んでも、実の母親なのに、その関係は変わらなかった。 父が死んで、ますます母親の傍の居心地が悪くて、私は独立したのだ。 つい最近、私は一つの恋にピリオドを打った。 所詮道ならぬ恋だったし、初めから何も答えは無かった。 彼の奥様に、私たちの関係が知れるところとなり、私は人生で初めて、女性からの本気の罵倒の言葉と屈辱を受けた。会社は居づらくなり辞めた。 このことは、母にはまだ内緒である。 もちろん、不倫のことなど、言えるはずもない。 「おかえり。」 その言葉は、たった一言だったのに、私の心の中にじんわりと広がり、泣きそうになるのを堪え笑顔でただいまと答えた。 母は不器用なのかもしれない。     
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