第三章 『瞳に映るもの』

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「あの、ホームズさんは、円生に腹が立たないんですか?」 円生自身がアレンジメントした花と、あんな露骨に煽るメッセージが贈られてきたのに、顔色一つ変えないなんて不自然だ。 普段のホームズさんなら、絶対に舌打ちするところだというのに。 「全然ですよ。所詮、こんなの負け犬の遠吠えですから。なんていっても、僕は葵さんと結ばれたわけですからね。まあ、負け犬はせいぜい遠くから花でも贈っておけって感じですね」 そう言って、眩しいまでの笑顔を見せた。 いきなりの余裕に、むせそうになる。 「ですが、人様の彼女を誘惑するようなメッセージは冗談でもいただけないですね。破り捨ててしまいましょうか」 私の手からメッセージカードをヒョイッと取るホームズさんに、私はぎょっとした。 「さすがにそれは」 「冗談ですよ」 ふふっ、と笑ってカードをテーブルに置いた。 いや、きっと半分くらい本気だったに違いない。
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