プロローグ

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「美術界に携わる者の一人として、今回のようなことを根絶していきたいと思っています。あなたはこの依頼を取り下げましたが、僕が勝手に調査を進めても良いでしょうか?」 そう尋ねたホームズさんに、米山さんはぽかんとした表情になると、小さく笑う。 「勝手に調査を進めるなら、許可なんていらないよね? どうぞ」 何もかも諦めきったような笑顔を見せた後、米山さんは再び歩き出した。 駆け足で遠ざかる米山さんの背中を見送りながら、私はそっと尋ねた。 「調査って、他にも盗難事件が起きている可能性があるということでしょうか?」 「あるでしょうね。何より個展を終えた後に配送業者に紛れて盗み出すなんて、プロの手口です」 「プロ……」 「以前も、似たような手口で盗みを働いていた輩がいましたね」 私は「えっ?」と小首を傾げた後に、その時のことを思い出して言葉が詰まる。 「なんだか、嫌な予感がするんです……」 足を引っ張る者とは、よく言ったものですね、と雨風にさらされ枝を揺らす桜の木々を見詰めながら、ホームズさんは静かにつぶやいた。
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