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「やっぱ、親には内緒なん?」
香織は、興味深そうに小声で尋ねる。
「ううん」
「えっ、言ったの?」
信じられない、と香織が前のめりになった。
「ホームズさんが、『葵さんのご両親に嘘をつく付き合いはしたくないんです』って。『それで旅行を反対されたら、その時は諦めましょう』って言ってて……」
「え、なにそれ、ホームズさん、めっちゃええ人みたいやん」
露骨に顔をしかめる香織に、私は肩をすくめた。
「……みたいじゃなくて、ちゃんと良い人だよ」
「ほんで、親は?」
「『もう大人なんだし、勝手に行ってらっしゃい』って。『でも、挨拶とかには絶対来ないでほしい』って、困ったように言ってた」
「そらそやろうなぁ。お父さんにも言うたの?」
「直接は言ってない。お母さんづてに。お父さんは気持ちは複雑だけど、ホームズさんとの交際は認めてくれてるし、お母さんは大賛成だしね」
「なるほど。ホームズさんは長い時間をかけて、外堀を埋めたんやな」
「外堀って」
「そやけど、それだけ葵のことが好きってことなんやな。その点は私もホームズさんのことを買ってるんやで。あのカッコよさが崩れるくらい、葵にまっしぐらやし」
うんうん、と頷く香織に、私は頬が熱くなるのを感じて、目を伏せた。
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