プロローグ

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彼はここの副館長に相談があるそうで、私はその間、庭を散策しようと、ぷらぷらと歩いていた。 庭園の桜の美しさに、私は「綺麗」と足を止める。 「やっぱり、来られて良かった。去年ここに来たのは、桜が終わった後だったし……」 ホームズさんと副館長の話がどんなに長くなっても、ここでなら退屈することなく良い時間を過ごせると思っていたけれど、やはりその通りだ。 約四十種類の竹がある外園には、松隠、梅隠、竹隠という名の三つの茶室に、砧の手水鉢、謂れのある女郎花塚。早春のイメージが強い椿の花も咲いている。 美しく整えられた花々に竹、木々の緑に池。 大学の近くの京都府立植物園も良いけれど、ここは『庭園』としての魅力に溢れている。 それにしても、ホームズさんの『相談』とは、一体なんだったのだろう? ホームズさんは、よく相談を持ち込まれるけれど、彼自身が誰かに相談するというのは、少し珍しいことのように思えた。 「――葵さんっ」 背後から聞こえてきた声に、私は振り返った。
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