プロローグ

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「個展は成功したけど、大変なこともあって、お気の毒だったよね」 ホームズさんは「えっ?」と小首を傾げた。 「『大変なこと』とは?」 「あれ、知らなかった? 君なら美術界に精通しているから、なんでも知ってそうだと思ったのに」 「今、僕は祖父と行動をともにしていないので、そうした情報からは離れてまして」 ホームズさんは、少し口惜しそうに言う。 ちなみに今、以前のホームズさんのようにオーナーに付き添っているのは、恋人である滝山好江さんだ。 時々、勉強のために、息子の利休くんも一緒に付き人をしているようだ。 ちなみに利休くんは、志望大学・京都工芸繊維大学に無事合格した。 「米山さんの作品が盗まれたそうなんだよ」 沈痛の面持ちで告げた井川副館長に、ホームズさんも私も「えっ」と瞬く。 「そんなニュース、聞いてませんが?」 「……うん。あまり大ごとにしたくないって感じだったから関係者くらいしか知らないんじゃないかな。もちろん、警察には伝えたみたいだけど」 そうですか、とホームズさんは洩らして、顎に手を当てる。 私は話を聞きながら、どの絵が盗まれたのか気になって仕方がなく、前のめりになった。
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