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「どうしてここに住んでるって分かったんですか?」
「さっき駅から歩いてるのを見かけて、声を掛けようとしたけどなかなか追いつけなくて、ここまで来ちゃいました。そしたらさっきの男にいじめられてるのが見えて」
「は、はぁ……いや、結果的に助かりましたけど、家までついてくるのおかしくないですか?」
「そうなんですか?ニンゲンのこと、よく分からないので」
「??」
まるで自分が人間じゃないみたいな台詞を言うんだなと思ったが、そこは触れないほうがいい気がした。
「警察、呼ぶんですよね。僕は面倒なので、もう帰りますね」
「え?いやあの、一緒に説明してもらうと助かるんですけど……。その動画のデータも証拠になると思いますし」
「ああ、これ」
男は携帯の画面をわたしのほうに向けた。チラチラと画面がチラついていて、「エラー」が表示されている。
「僕、常にびしょびしょのせいか分からないんですけど、スマホがいっつもこんな感じになっちゃうんですよ。これ防水のはずなんだけどなー」
「ええ?じゃ、どうしてさっき撮影って……」
「そう言ったら、助けられると思ったので」
男は「ははは」と無感情に笑って、階段を一段飛びに下り、うずくまるフトシの背中を踏んづけて、そのまま帰って行った。
わたしはこの状況を一体どうやって警察に説明すればいいのかと、ボタンの取れたシャツではだけた肩を隠し、半分ほど脱がされた下着を履き直し、新品の歯磨き粉を見て、途方に暮れた。
明け方の空に輝く月は、ヤモリの瞳のよう細い三日月だった。
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