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「なんだよ、そんなに威力のある俺様のチューより、片桐のチューの方が素敵って、なんか納得いかねーんですけど」
誰もそんなことは言っていない。
全員、即座に心の中で突っ込んだが、この男に何を言っても無駄だと思い、ぐっと飲み込んだ。
ここでいち早く立ち直ったのは、橋口だった。
「だから、優劣の問題じゃないんです」
ここで、懇切丁寧に解説できるのは彼女しかいない。
「池山さんが酔っ払った時のチューはもっと身体を合せたくなるチュー。さっき見た片桐さんのは、心を丹念に繋ぐ感じ・・・かな」
ふと宙を見上げ、言葉を止めた。
「私は、そんなキスをしてきたかしら、と、思ったんです。キスを身体を合わせる手段の一つで、心地よいだけだった気がします。唇で心を語るなんて、考えた事もなかった」
橋口は数日前に別れた男を思い浮かべた。
聖。
私の唇では、貴方の心に届かなかったのかしら。
今更、もうどうにもならないけれど。
「唇で心を語る、か・・・」
柚木は視線を落とし、手元のビールの泡を見つめた。
「それはまた、すごいっすね」
幻想的だった、先ほどの光景が目に浮かぶ。
全員、それぞれの想いをめぐらせ、沈黙が下りた。
「ああでも。正直なところ、中村さんも惜しいコトしたわ~」
しかし、立ち直りの早い橋口が軽くその場を破壊した。
「は?惜しいこと?」
「ええ。私、中村さんとなら、物凄く可愛い女の子が産めるなあって常々思っていたんですよね」
言わんとすることはわかる。
中村のはかなげな容姿は、むしろ女性に生まれたなら賞賛の目を浴びただろう。
しかし。
「・・・弥生さん、ぜんっぜん、懲りてないですね?」
可愛い女の子を産みたい願望から1ミリたりとも離れていない。
「あ、わかります。私も、中村さんと初めてお会いした時に、彼みたいな容姿と性格で女の子に生まれたら、人生勝ったも同然だなと思いましたもん」
横から村木が思いっきり深く首を縦に振る。
「・・・美和ちゃん、アンタもか」
この点に限っては、意見を異にする本間の頬が引きつった。
「産んでみたいよね、あんな妖精みたいな子」
「そうですね~。どんな服も似合いそうですよね~」
娘に人生を託したい派な二人は手を取り合い、すっかり一心同体だ。
「頼むから、そこから離れてくれませんか・・・」
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