いつか、王子様が

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「あの、おれの親父、こんなん、なんですけど」  胸元から携帯電話を取りだして、手早く操作し、画面を葵の御紋のように振りかざした。 「これでもいいですか?デブ・チビ・ハゲ・ヒゲ・脂ギッシュ、胸毛腹毛です」  そこには、村祭りの法被を着た男が笑っていた。  健康そうで、人柄も良さそうだが、女性受けしない容姿だ。 「・・・え?」  橋口の動きが止まった。  すかさず、村木と本間が身を乗り出して画面を覗き込む。 「うわ、ほんとだ・・・。言っちゃ悪いけど、そのまんまだ」 「ええと、ちいさいおじさん、って感じですね?」  ぽかんと口を開いて固まっていた橋口が、そろり、と身体を戻していく。  のど元に食らいついていた女ヒョウが、ふと思い直してゆっくりと牙を外してくれたような心地だった。 「・・・考えてみれば、私、今日は帰国したばっかりで疲れていたんだったわ」  しゃっきりと背筋を伸ばし、首を一降りした後、にこっと笑った。 「お騒がせしてごめんなさいね、ちょっとなんだか血迷っていたみたい」  正気に返ったようで、柚木は胸をなで下ろした。 「今日もありがとう、親父・・・」  携帯を握りしめ、田舎の父へ感謝の念を送る。 「・・・お前、知ってたの?」  この騒ぎの中、静観していた立石を池山が肘で突っつく。 「・・・まあな。ユズは、そもそももてるんだよ。ノリが良いし、優しいし、あの顔だし。若いけどすぐにでも結婚したいって、よく言い寄られてる。だから、たまにああやって親父さんの写真を魔除けに使ってる」  面白いくらいに引いていく女性達を少しも恨まない柚木の器の大きさも、知っている。  確かに、彼と一生を共に出来る人は幸せになるだろう。 「ああ、定番なんだ、アレ・・・。それもどうかと思うけど」  デブ・チビ・ハゲ・ヒゲ・脂ギッシュ、胸毛腹毛の何がいけないのか。  年取ったら皆同じだろうと思うのだが、遺伝子を残そうとする本能がそれを拒むのだと、幼なじみの有希子が言い放ったのを思い出した。  そう豪語した彼女が、自分と身長の変らない岡本を最終的に選んだ所を見ると、実は本能なんてたいして当てにならない気もするが。  女達の残酷さをしみじみ噛みしめつつ、その単純さがまた可愛いと思ったりもする。
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