霊安室、それから……

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写真には、見覚えがあった。 それは、私が二十歳を迎えた日のことだった。 それまでずっと、「おじいちゃんは、戦争で亡くなったんよ」と私に言い続けていた母が、突然「本当は、おじいちゃんは死んどらんのよ。けど、普通の人じゃなかったもんで……」と、一枚の写真を見せてきた。 どこかの大きな神社の境内で、立派なダブルボタンのスーツを着た初老の男性が、豪華絢爛な着物に(くる)んだ赤ん坊を抱いて笑っている。 写真の裏を見ると、『S、お宮参りにて』と記されてあった。 「もしかして……これが、私のおじいちゃん?」 「ええ、そうよ」 母は私の顔色を窺うように、申しわけなさげに笑った。 無理もないと思う。 私も、正直どんな顔をしたらいいか分からなかった。 おじいちゃんの背後には、黒服を着た人たちが何人も取り囲むように並んでいた。 二十歳にもなれば、さすがに私もそれが何を意味するのかは分かる。 私のおじいちゃんは、『普通の人』じゃないんだ……。
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