霊安室、それから……

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安らかに眠っているE口さんの横で母を待ちながら、私はもう一度写真の裏を見た。 間違いなく『S、お宮参りにて』と書いてある。 「おじいちゃん……」 『出来ればもう一度、娘と孫に会いたかった』 思い出すと、涙が自然と溢れてきた。 「おじいちゃん、小指……プレスの下敷きにって言うの、やっぱ嘘じゃん……。『普通の人』になろうとしたんだね」 もうひとつは、母の結婚式の写真だった。 そこに、おじいちゃんの姿はなく、ウエディングドレス姿の母の横には、しゃんと胸を張ったおばあちゃんが一人で立っている。 「おじいちゃん……。私だよ……Sだよ。ちゃんと、孫に会えてたんだよ? 気付いてあげられなくてごめんね」 おばあちゃんは、私に一度もおじいちゃんのことを悪く言わなかった。 母も、同じだ。 二人とも「おじいちゃんは、人情に厚い、素晴らしい人だった」と、いつもそう教えた。 ーーきっと、おじいちゃんは私たち家族に迷惑をかけないために、自分から離れたに違いない。 到着した母の泣き顔を見て、私はそれを確信した。 母は、もう一枚内ポケットから出てきたセーラー服姿の自分の写真と、茶封筒の中に入っていた遺言状と手紙を読みながら 「なんで、戻って来てくれなかったのよ……」と、何度も呟いては泣いていた。
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