深夜のナースコール

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「……た、ただいま戻りました!」 「あらま!どうしたの? 随分と慌てて」 ナースステーションには、私より七年先輩のY子さんがいた。 Y子さんは、逃げるように帰ってきた私を見るなり目を丸くして、ずっしりした身体を大きく揺らしながら笑った。 三十床の夜を二人で守るに辺り、ベテランのY子さんの存在は有難かった。 「だって……怖いんですもん」 「まぁね。確かに、夜の病棟って不気味よね~。でも、そのうち慣れていくわよ。ナースは度胸!!って、そのうち絶対思うようになるから」 「……なれますかねぇ。私にも……」 看護師になって、一年が過ぎた。 その間に、多くの患者さんに触れ、時には死体にも触れた。 ご遺体に触れることは、決して怖いことではなかった。 むしろ、患者さんの最期に触れることに誇りを持ちたいと、そればかりを思っていた。 なのに、夜の病棟の不気味さには、いつまで経っても慣れる気がしない。 ここにいるのは、私たち看護師と、夜勤のドクターと、患者さんたちだけ、仮に幽霊が出たとしても、過去にここにいた患者さんに違いない……と、そう自分に言い聞かせて夜勤に臨むのが常だった。 「なれるわよ!絶対! 」 Y子さんが、私の肩を力強く叩いてくれた。 そのおかげで、私にまとわりついていた恐怖心が、少し和らいだ気がした。
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