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仕方なく、立石が続きを促した。
「・・・それで?」
「義理は果たしたからとっとと撤収かけようと思ってロビーに出たら、前カレが追いかけてきて・・・」
「うん」
「お前、なんかやつれたな。やっぱり独り寝が寂しくて仕方ないだろ?」
マエカレは、現在、所属しているバンドが大当たりして一躍時の人である。
だが、浮気現場に遭遇し、別れた。
超巨乳のグラドルと、よりによって本間がクレジットで買ったベッドの上で乳繰り合っていたので、家を飛び出して立石の家に転がり込んだ。
売れない時代から付き合って同棲までしていたのだから、捨てられた糟糠の妻を地で行っている。
披露宴会場では芸能人が来たと言うことでひっきりなしに囲まれていたため、接触せずに済んで安堵していたというのに、わざわざご丁寧に追いかけてきたことに、本間はいらだちを隠せなかった。
「なにそれ」
じっとにらみつけると、なぜか相手はやにさがる。
「そんなきっつい顔して。お前みたいな男好き、独りでいられるわけないじゃん」
「別に?今、サイコーに楽しいけど?」
なんでどいつもこいつも絡んでくる。
実は、式場では本間が同棲を解消したことが何故か広まっており、それを聞きつけたあまり馬の合わない知人たちから当てこすりを言われてうんざりしていたところであった。
「仕方ないからたまには相手してやっても良いぞ。俺もかなり忙しいからそうしょっちゅうってわけにはいかないけどな」
この、くだらない男は誰。
少し前までは共に暮らしていたはずで、その時はもう少し良い男に見えたが、それは幻だったのかもしれない。
友人たちにしてもそうだ。
学生時代はそれなりに楽しかったはずだが、卒業してそれぞれの道を歩んでいる間に、だんだんと環境も考えも、そして思い出すらも変っていくものなのだなと、少し感傷的な気分になった。
「悪いけど、男はもういるから」
そう言い捨てて歩き出そうとしたら、片手を掴んできた。
「またまた。意地を張らずにさあ・・・」
コイツ、殴って良いだろうか。
式会場フロアのロビーはごった返していた。
彼が芸能人であることに気が付いて、こっそり指さしたり、写真を撮ったりしている人がいるのを目の端で捕らえて舌打ちする。
こんな男の巻き添えで週刊誌ネタにされるのはごめんだ。
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