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「……何で今?」  瑠奈の言葉に、(こう)は聞き返した。 「今だから、かな……」  瑠奈は曖昧な返事をする。  同じ高校の制服を着て一緒に登校する朝でも、空には大きく月が見えていた。 「……分かった。じゃあ――別れよう」 「うん」  瑠奈と晃は恋人同士だった。幼い頃から一緒に居て、当たり前のようにお互いに惹かれていった。相手の考えていることは大体分かっているつもりだった。  ――世界はどうやら終わるらしい。  お行儀良く並んだ星々が月によってそのバランスを崩されようとしている。一日中見える月は日増しに大きくなり、やがては地球に落ちてくる――実しやかにささやかれたそれは人々に混乱を与えた。けれども逃げ場もなくどうしようもないと気付いたからか、ただの噂に過ぎないと思ったからか表面上は落ち着きを取り戻していった。一年、二年、とたっても世界は続いていて、日常を送るしかないと思ったからかも知れない。  そんな“今”。 「友達としては話してもいいわけ?」 「そっちはそれでいいの?」 「おう」 「じゃあ、それで。望月くん」  晃はすっぱいものでも食べたような顔をした。 「お前から初めて言われたわ……」  瑠奈は笑っていたが、心の隅では寂しさを感じていた。 *  地元の中学校から進学した高校は、中学校よりも生徒数が少なかった。その異常さも、月の落下説の所為だった。  瑠奈と晃は同じクラスだ。一緒に教室まで行くのは友達として普通だろう。 「おはよう。今日もラブラブだぁ」と友達に話しかけられた瑠奈は少し困ったように笑って、 「今日は、ラブなしです」と言った。 「えっ、けんか?!」 「うーん、ちょっとね」  瑠奈は言葉を濁した。その様子に友達は深くは訊いてこなかった。 「元気出せー」 「ありがとう」  抱きついてきた友達を瑠奈は嬉しそうに受け止めた。 「晃、かお」  友達に指摘されて晃は視線を瑠奈達から外した。 「けんかしたの?」 「いや……」  言いよどむ晃は珍しい。友達は、おやまあ、と言いたげな顔をしたが余計なことに首を突っ込んだりはしない性格なので放っておいた。
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