第一章

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第一章

 松田詩織に その公園で会ったのは 10日前のことだ。  彼女とは高校のクラスメート、というだけで特に親しいわけではなかった。  高校に入学して3か月。まだ話したことがない どころか、名前も覚えていないクラスメートが結構いる。特に女子とはほとんどコミュニケーションがない。  中連の陸上長距離種目で地区大会入賞を果たした僕は、入学早々、陸上部の部長からスカウトされてそのまま陸上部に入った。放課後は 即部活となり、部のメンバーの方を先に覚えたくらいだ。  受験勉強中も欠かさなかった、この公園までのランニング。 これまで、不思議なくらい知った人に会ったことがなかった。 だから 驚きと同時に新鮮さを感じて、彼女を見つけたとき思わず見つめてしまった。 彼女もすぐに僕の視線に気づき 「あら」という仕草を見せて、それから ちょっと曖昧(あいまい)な笑顔を見せた。 「やあ。ここの公園良く来るの?」 女の子との会話は得意じゃないと思っていたが自然と言葉が出てきた。 「うん、最近」 「そうなんだ。僕は中学の頃から毎日」 (こっちの方が先なんだからな) という感情が少なからずあったかもしれない。 「川澄君、陸上部だったね。中学からなの?」 「うん、長距離専門。っていうか 陸上部って良く知ってたね」 「入学式の日に陸上部の人、部長さん?スカウトに来てたでしょう。ちょっとした噂になってたのよ、スター候補だって」 「え?それは、知らなかったし、違う..と思う」  公園のベンチに並んで腰かけ、30分くらい おしゃべりをした。 彼女との会話はリズムが合う とでもいうのか とても楽しかった。 別れ際、彼女に ここで会ったことは学校では内緒にして欲しい と言われた。 (まあ、変な噂にでもなったら困るだろうしな) と、若干 自虐的(じぎゃくてき)に解釈し、僕は了解して 帰途についたのだった。 周りから見ると、僕は軽くスキップをしているように見えたかもしれない。
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