つきのないよる

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しばらく走り続けると、私は疲れて走るペースを少しだけ落とした。 すると、後ろからゆっくりと、しかし確実に距離を縮めてくる靴音が聞こえて――来ない。 もしかして、撒けたのだろうか。 僅かな可能性にかけ、私は恐る恐る振り返る。 そこには、ただ真っ暗な夜道があるだけだった。 (良かった、何とか撒けたんだ……) 私は視線を戻し、再び走り出――せなかった。 「ギャハハハハハハ!あれぇ、もしかしてオレを撒けたとでも思ったぁ?ざぁんねぇんでしたぁ!」 目の前に、彼がいた。 獰猛《どうもう》に目をギラつかせ、ナイフを振り上げる彼の姿が目に映った。 「……って、このままナイフ一突きで殺してやってもいいんやけどぉ、それじゃつまんないんだよね。……あ、そうだ」 そう言って彼はナイフを下ろすと、色々な感情がごちゃ混ぜになって言葉も行動を起こす力も出ない私の顎を掴んだ。 (あ、顎クイだ……) なんてしょうもないことは考えてない、断じてだ。そこまで私は図太くはない、はず。 彼は私の顎をクイっと上げると、今にもずり落ちそうな目を私の目と合わせた。     
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