つきのないよる

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そう言って彼は笑い、私の顎から手を離した。そして代わりに私の手首を掴んだ。逃げられないようにするためか。 「じゃ、今から30秒ね。よーい、スタート」 (30秒!?そんなの無理じゃん!) それでも私は、必死に考えた。 何故、今から殺す予定の私にこの話をしたの? 私に「生き延びれるかもしれない」という微かな希望を与えて、それを裏切られた時の絶望を味わせるため? ……いや違う、そんな理由ではないはずだ。 私は彼を見る。夜闇に隠れてしまうその瞳を、病的に白い肌を、耳元まで裂けた口を。 何故彼は私に話した? それはマイナスなことなのだろうか。絶望させるためとか、そんなことのために私に話をしたのか。 色々な考えが私の脳内を駆け巡る。可能性ならたくさん出てくる。でも、確証がない。 「はぁい、あと10びょーう」 私は、そう言った彼の目を改めてじっと見る。何かが分かるかもしれない。目は口ほどに物を言うとは真実なのか、証明する時が来た。……その証明には、文字通り「命がかかっている」のだが。 彼の目には、私が映っていた。彼の瞳は、私だけをただ、じっと捉えていた。 その瞳は、残り時間を数えるごとに揺れる。     
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