信号機の矢印

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 それが交差点の真ん中でふいに消えた。  以降はもう何も見えないし、物音も何一つしなかった。ただ、とんでもなく早くなった動悸が体内から俺の耳に響いていた。  今の光景は何だったのだろう。  運ばれていたのは人間なのか? だとしたら、運んでいたのは何だったのか。運ばれていた人達はどこへ行ったのか。  色々なことを考える脳裏に、信号機が示した、真下を向いた赤い矢印が甦った。  彼らは、俺が今いるこの場所から見て、どこか知らないけれど『下』と判断できる所へ連れて行かれたのだろうか。  そこがどこなのかは判らないけれど、もし俺が、ハンドルを切らずにあのまま迫りくる音の進行線上にずっといたら、俺もあの人達と一緒に、どこか判らない『そこ』へ連れて行かれていたのだろうか。  いくら考えても答えは出ず、俺は夢に包まれたような気分のまま家へと帰った。  あれ以来、遅くまで残業をした時も、他の理由で真夜中にその交差点を通ることになっても、一度として真下を向いた赤い矢印を見たことはないし、あの、轟音を振りまく得体の知れない『何か』と遭遇もしていない。  多分、平穏な日常を送るためにはこれでいいのだろう。  ただあの体験をしてしまった身としては、何もなくてもあの交差点を通る時、ついつい必要もないのに信号機の、矢印が点灯する部分を見てしまう。  でも本当は、この癖は直したいんだけどな。だって俺の本音としては、もう二度とあんな不吉な赤い矢印は目にしたくないんだからな。 信号機の矢印…完
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