1人が本棚に入れています
本棚に追加
暗闇の中に記号の表記が浮かび上がる。だが、いつもはほとんど見流すその表記に、俺は車を走らせることも忘れて見入っていた。
普段信号の矢印は青色なのだが、今灯る矢印は真っ赤な色をしていたのだ。しかもそれが右ではなく、下を指し示している。
当然ながら、俺はそんな表記を信号で見たことはなかった。
故障? それとも、これは何か特殊な車両が通る時の合図なのだろうか。
答えが出せないまま赤い色の矢印を見つめる。そんな俺の耳に後ろの方から何やら音が響いてきた。
ごぅん、ごぅん…。
重々しい物体が動く音が後方から近づいてくる。
道を開けなければいけない。だが、前方に進んでもいけない。
本能的にその考えが浮かび、俺は少しだけアクセルを踏みながら、大きく左にハンドルを切った。
左幅いっぱい。停止線からは大きくはみ出ているが、ギリギリ交差点に進入しない位置まで車が移動する。そうやって俺が精一杯空けたスペースを、何かがゆっくりと通過して行くのが判った。
ごぅん、ごぅん。
目に見える空間には何もないのに、やたらと重たい音が真横を過ぎる。同様に、凄まじい圧迫感も横を過ぎて行く。
その凄まじい圧力に目を閉じかけた時、微かに何かの映像が見えた。
それはとてつもなく大勢の数の人間だった。
真横を過ぎて行く『何か』は見えないけれど、それがあるらしき空間に、人間らしき物体がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
過ぎ行く『何か』の音が大きくて、声とか、そういったものは何一つ聞こえない。人の形に見えるけれど表情などもさっぱりだ。
でも、人間としか思えない大量の人達が、『何か』に詰め込まれたような状態で前進して行く。
最初のコメントを投稿しよう!