真夜中でもいい、会いに来て。

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 私は、夫が搬送されたという病院に向かった。  何の躊躇いもなく身支度を整えて、真っ暗闇の中を、自分の車を運転して。  自分でも不思議なくらいだった。急に夫が死んだと告げられて茫然としていたはずなのに、体は勝手に動いた。まるで、私の中にもう一人の私がいて、そのもう一人が冷静に私を動かしてくれているような感覚だった。  病院に着くと、まるで段取りが決まっていたかのように、私が名乗っただけで、警察官と看護師にとある一室に案内された。  処置室、というのか。タイル張りで、消毒液のようなにおいがする狭い部屋だった。部屋の真ん中には、無機質な金属製の簡素な台。そこには、ビニール製のシートにくるまっている人の形に膨らんだ何かが乗っていた。 「確認してください」  誰だったかがそう言って、ビニール製のシートを外した。  私は、目を背けずにそれを凝視した。  間違いなく、それは人であった。  そして、その人が確実に絶命していることはわかった。手足があらぬ方向に曲がっていたし、全身は傷だらけであった。     
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