真夜中でもいい、会いに来て。

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 突然、夫が死んだ。  真夜中の勤務を終えた帰り道、居眠り運転のトラックが歩道に突っ込んできて、避けられなかったのだという。  ちょうど結婚10年目を迎えた夏だった。  私たち夫婦は、夫が31歳、私が26歳のときに社内恋愛の末結婚した。  私たちはお互い部署は違えど、正社員として同じ会社に勤めていた。  子どもはいない。結婚5年目に不妊治療に取り組んだけれど未だ実らず、最近はこれから夫婦二人で生きていこうか、という話も出始めていた。  夫は、真面目で実直な人だった。  背が高くてスラッとしていて、面長で、仏頂面。愛想がいいタイプではなかったけれど、不器用な優しさがある人だった。  私が重い生理痛に苦しみながら青ざめた顔で仕事をしているとき、誰も気が付かなかったのに、こっそり“具合が悪いなら早退しな”と言ってくれたことがあった。それは冷めたような一本調子の口調だったけれど、優しい言葉だった。     
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