真夜中でもいい、会いに来て。

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 それ以上は何もない。心配してくれたのはわかる。けれど、スマートな優しさを上手く見せることができないのだ。苦しんでいるときに優しくされたら女はクラッとくるのに、あと一歩足りないような、そんな女性慣れしていない不器用さに私は何となく好感を持った。  交際するようになってみたら、どことなく、古いタイプの男だとわかった。私が男性に混じって夜中まで残業するのを“女性はこんなに仕事をやらなくていい”といつも不満げだったし、男ばかりの部署の飲み会に行くのをあまり好まないところがあった。  女性は守るべき存在だというのがいつも根底にあった。それが男ばかりの部署で仕事をする上でたまに面倒くさいと思うこともあった。少しは信用して欲しかったし、仕事に没頭させて欲しかった。だけど私は夫と交際してから、自分は女なのだと意識することが多くなって、少しだけくすぐったくて嬉しくもあった。  そのくせ、甘い言葉などは一切言わない。“可愛い”や“綺麗”など、一度たりとも言われたことはない。そもそも好きだときちんと言われたかどうかすら怪しい。そういう歯の浮くような台詞は頑として言わなかった。  けれど、夫が私を愛してくれているのはわかっていた。  夜中に二人で寝ているとき、はだけた布団をそっと掛けてくれるのも、私を起こさないように優しく抱き締めてくれるのも、表立ってできない夫なりの愛情表現なんだと、わかっていた。  子どもがいなくとも、私はそんな夫がいるだけで良かった。
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