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私は、夫の枕を抱き締めた。
ふわっと、嗅ぎ慣れた夫の匂いがした。
「……洗わなくて、良かった……」
夫の匂い。嗅ぎ慣れた、別にいい匂いでも何でもない夫の匂い。
むしろ、汗をかく季節だから、ちゃんと洗濯しないと枕カバーが臭くなるって思ってたけれど。
今だけは、この匂いをずっと嗅いでいたい。
今だけは――――
夫を抱き締めているような感覚になった。
枕に頬ずりする。夫の匂いを、鼻いっぱいに吸い込んだ。
「ごめん、ごめんね……」
抱き締めながら、何度も何度も謝った。
口煩い妻で、ごめんね。いつもいろいろやってくれていたのに、文句ばかりでごめんね。枕カバーのことも、ごめんね。
ちゃんと目を合わせて、微笑み合って、“いってきます”を言えば良かった。最後が苦笑いなんて、あんまりじゃないか。
「……謝らせてよ、お願いだから……」
いつもどおり、抱き締め返して欲しい。
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