25人が本棚に入れています
本棚に追加
夫の匂いがする。だけど、返事も、汗っかきの夫の湿った肌の感触もなくて。
「……真夜中でもいいから、幽霊でもいいから、会いに来てよ……」
返事はない。ただ、夫の匂いがするだけ。
私は、夫が死んでから初めてぽろぽろと涙をこぼした。
私の涙に何より弱かった、夫。
私が泣くと、いつも“しゃーないなぁ”と抱き締めて頭を撫でてくれた。
「……ねぇ、私、今、泣いてるよ」
他ならぬ私自身が。私自身の本当の気持ちで。
涙が止まらない。私は、こんなにも夫を愛していたのだ。
「……私、泣いてるから……ねぇ、会いに来てよ。真夜中でもいいから、こっそりじゃなくていいから、音を立てていいから……」
返事はない。
ただ、夫の匂いがするだけだ――――。
―――終―――
最初のコメントを投稿しよう!