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夏祭りからの帰り道、コンビニに寄って花火を買った。
コンビニに寄ろうと言ったのは葉月くんで、花火を買おうと言ったのは私。
夜の公園で、一本、また一本。
買った花火に火を付けていく。
パチパチ音を立てては数秒で消えていく花火を、ただボンヤリと眺めることしかできない。
もう少しだけ、あと少しだけでいいから…
葉月くんと一緒にいたかった。
だけど、そういう時こそ時間はあっという間に過ぎていくもの。
気付けば、手元には最後に残しておいた線香花火が数本だけになっていた。
静かで儚くて美しくて…
だけどしっかり存在感がある。
そんな線香花火が、花火の中で一番好きだった。
『七海』
『ん?』
『この線香花火が消えたら…
俺達、もう別れよう』
『…うん。別れよう』
『ごめん…好きだよ』
『私も…好きだよ』
夏の夜空に溶けたのは私達の声。
ポトリ、音も立てずに小さな赤橙色が
落ちた時、私達は最後のキスをした。
その瞬間、散った恋は線香花火よりも儚くて。
泣かないと決めていたのに…
二人揃って涙を流した、
遠い夏の日の記憶…______
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