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「その熱、朝からですか?こんなになるまで……頑張りすぎですよ」
彼は少し怒り気味に、それでも優しく言葉を掛けてくれた。
「でも。今年で最後だし……」
そんな彼に、私は口答えをしてしまう。
熱は確かに朝からあった。
その時はまだ微熱程度で、正直大丈夫だろうと思ったし、そもそも私には文化祭当日に“休む”なんて選択肢はなかった。
だって、高3の私にとって最後の文化祭だから。
それに、私は委員長だから。
委員長になってから数ヶ月、たくさん準備してきたのだ。その集大成の日に家で大人しく寝ているだけだなんて、私には到底出来なかった。
「蘭先輩のそういうところ、尊敬します。だけど」
彼は真剣な眼差しで、私に言い放つ。
「もっと、俺に頼って下さい」
まるで的を射抜く矢のごとく、その言葉は私の心にとすんと突き刺さった。
……可愛い後輩だと思っていた。
くしゃっとした笑顔と。
ポメラニアンのような愛嬌と。
友達とふざけ合っている様子と。
委員会中だってふざけた発言ばかり。
そんな彼に頼るなんて考えたこともなかった。
ただの、生意気で可愛らしい後輩だと思っていたのに。
何故か今、目の前にいる彼がカッコよく見える。
(これは、熱のせい……?)
きっとこの熱が、私の判断を鈍らせているのだ。
心なしか、頭もぼーっとしてきた。
そこに追い打ちをかけるように、彼は言った。
「…………先輩知ってますか?風邪って、誰かに移すと治るんですよ?」
「ああ。まあ確かにそれはよく言うね」
「なので…俺に、移して下さい」
「え?」
彼の言葉を聞き返そうと、目線を彼に戻した瞬間。
その一瞬。
一瞬の、キス。
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