この熱はきっと。

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思わぬ展開に、既に熱を帯びた脳は思考を停止させる。私は目を見開いて、立ち尽くしてしまった。 (今のって…………) 触れた感触が、私の唇に残っている。 その感触を反芻するかのように、私は無意識に自分の唇に指を当てていた。 その様子を見て、彼はクスッと笑った。 「足りないですか?」 いつもはポメラニアンのくせに。 今は狼みたいな悪い顔をして、私を見つめてくる。 「足り……は!?」 言われた言葉に、思わず声を荒げる。 「足りないとか、そういう問題じゃ…なくて……」 言い返そうと思ったのに、興奮したら頭がクラクラして、言葉が続かない。 「蘭先輩。もう1回キス、してい?」 言い返してこない私を見て、彼はストレートに聞いてきた。 「てゆうか、しますね」 いや、正しくは、“言ってきた”。 しかもさっきは勝手に奪っておいて、今更何の伺いを立てているのか。 宣言を終えると同時に、彼は私の両手首を掴み上げ、顔の両脇に押さえつけてきた。 「ちょっ……!」 私は必死に抵抗するも、掴まれた手首はびくともしない。 熱で私の力が出せていないからなのか。 彼の力が強いのか。 どちらなのかも、判断が出来ない。 そんな事を考えている間に、彼は唇を重ねてきた。 手首は掴まれたまま、顔が近づく。 何度も。何度も。何度も。 触れては、離れを繰り返す。 ……それから何十回とされてようやく、キスが止まった。
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