この熱はきっと。

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私はゆっくりと瞼を開ける。 そして熱を帯びた目で、目の前の彼を見つめる。 ぽーっとして、もう何も考えられない。 それだけ、彼とのキスは気持ちよかった。 「蘭先輩。それ、無意識ですか?」 見つめていたら、彼からそう聞かれた。 心なしか、彼は少しだけ顔を歪ませている。 「それって?」 “それ”が何を指すのか分からず、私は聞き返す。 「それ」 彼の両手は私の両手首を掴んでいる為、仕方なく彼は顎を使って指す。 くいっと指されたのは、私の顔の辺り。 だが範囲が広く、まだ分からないので、私は首を傾げる。 「蘭先輩、俺のこと『好き』って顔してる」 彼はいたずらっぽく笑いながら言った。 「っ……!?」 私は言葉を失う。 頭の中がパニックになった。 だがすぐに、疑問を抱く。 私は努めて冷静に、その疑問を彼に投げてみる。 「……ちょっと待って。それって、どんな顔?」 何となく彼を正面から見られなくなり、顔の正面は横を向けながら、ちらちらと目線だけ彼に向ける。 すると彼は、んー、と一拍置いて答えた。 「キスで、とろんと溶けた顔」 「と…!?と、溶けてなんて」 一気にまた熱が上がる。 「気持ちよかったでしょ?俺とのキス」 彼はあえて私の耳元で、お構いなしにそんな恥ずかしいことを言ってきた。 しかも自分のキスにかなり自信があるようで。 かあ、っと私の顔がさらに真っ赤に染まる。 私は何も答えられなくなる。 下手に声を出したら、もう戻れない気がして。 でもその無言すらも、彼の思う壺だった。 にやりと笑って、彼は言った。 「蘭先輩、可愛すぎ……」 小声だったけれど、聞き取れた。 相手を間違えてるんじゃないかとか、ただからかっているだけじゃないかとか、そう思っていたけれど。 目の前にいる彼の表情は、恍惚としている。 彼はきっと、本気だ。
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