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 しくしくと悲しそうに、雨が降っていた。  朝、天気予報を見ずに家を出たわたしは、会社のビルの出口でため息をついた。  ガラスについた雨粒が、一筋の跡を残して流れる。  まるで泣いているみたいな雨。  わたしの中にいる、小さな自分のように。  外側のわたしは、あちこち凝り固まって、身動き取れなくなって、それでもぎこちない笑顔が貼りついたまま。小さな自分は心の中で、誰にも気づかれないまま、涙を流している。  そんなわたしのために、この雨は降ってくれているのだとしたら。わたしの代わりに泣いてくれているのだとしたら。  雨粒のひとつひとつが、急に優しく感じられて。傘もないままわたしは、その中へ歩き出した。
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