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そこにネズミの姿はなかった。
「……やっぱ居るわけないよな」
そう思いながら一応、念の為にクローゼットの中を調べてみた。
結果、俺は白だと判断した。
傷を含め、糞さえなかったからだ。大体ネズミが潜む場所には噛み傷や糞など痕跡があるものだが、そこには痕跡らしい痕跡はなかったのだ。
良かった……けど、今の音って?
そんなことを考えながら、クローゼットの中を見ていると、代わりに気になるものを見つけてしまった。
そのものとは、まるで何年も長方形の何かが貼られていたような跡ーーそれこそ本当にお札のような形。
ハハッ……まさかね……。
背筋に一瞬寒気が走った。
実は前からここは事故物件ではないのかと言う疑念はあった。
実際、この部屋を案内された時、不動産屋の若い女と恐ろしい体験をした。
それはこの部屋ではなかったのだが、やはり因果関係があるじゃないのか?
俺はあの時の体験を思い出していた。
◇
とある理由から大学を辞めたことで家を追い出された俺が格安物件として見つけたのは、平々凡々とした二階建てのアパートだった。
部屋は妹の友人で不動産屋に就職した麻倉深咲に紹介してもらったもので、敷金、礼金なしで家賃2万と好条件の物件だったことも有り、もうほとんど決めるつもりで俺は部屋を訪れていた。
さて、俺の新居はどんな部屋なのかな?
そんなことを考えながら部屋のドアを開けると、
「あっ……こんにちわ」
女の子がそう言って会釈してきた。
「えっと……すいません、なんか俺、部屋を間違えたみたいです」
そう言って、慌ててドアを閉めた。
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