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「ま、何にせよ……この部屋を人に貸すって以前にもうこの部屋は開けないほうがいい」
「何言ってるんですか?アパートに空き部屋があるとかどんだけの損害だと思ってるんですか?私は絶対に諦めません!あの化け物を必ず退治してみせます!」
などと熱い台詞を吐きながら、彼女は顔の前で両拳を握るあざとい系特有のガッツポーズを取っている。
これ、なんのアピールだよ?
「ああ、がんばってな」
付き合ってられないと思い、部屋から離れようとすると、
「どこ行くんです?」
どこか狂気じみた雰囲気を醸し出すキュートな笑顔を浮べた彼女に腕を掴まれた。
「決まってるだろ、別の部屋を探すんだよ。こんな〇怨アパートなんざ住んでられるかよ!」
「ダメです、契約を頂くまで離しません!」
「てめえ、コンプライアンスはどうした?明らかな違反だろーが!」
「アレを見られた以上、帰すわけには行きません」
「ふざけんなっ、誰が住むか!こんな化け物屋敷!」
◇
「っきしょー、深咲のやつめ……がっつり事故物件じゃねーか!」
俺は慌ててスマホを手に取って、連絡先を開く。
多分、あの流れでなんでお前、この部屋住んでるの?って思うと思う。
それは俺も同じ気分だ。
あの出来事の後、恐怖に慄いて逃げようとした俺を捕まえ、口論すること数十分。
深咲が出してきた、半年間家賃なしと言う好条件に俺は膝を屈してしまった。
賃貸契約は一年間だ。当然契約を反故にすると違約金が発生する。今の俺にそんな余分なお金を払う余裕はない。
だからと言って泣き寝入りはしたくはない。
込み上げてくる怒りを抑え、俺は麻倉深咲と表示された画面の電話マークを押す。
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