3/6
前へ
/6ページ
次へ
 身も凍るような風が吹く日だった。  前日からいい波が来ててな、調子こいて波を独り占めしてやろうなんて思ってさ。夜明け前にボード抱えて海に出たんだ。あの頃は俺も若かった。  辺りは月もなく真っ暗。いくら何でも寒すぎた。たちまち骨の髄から凍えちまって、仕方なく車に戻ると、ひと寝入りすることにしたんだ。でも、がんがんヒーター効かせたところで、芯から冷えた体じゃあ、なかなか寝つけるもんじゃねえ。ようやくうとうとしかけたころに コツコツ……コツコツ  って、ためらいがちに窓を叩く音がしたんだ。  目を覚まして外を見ると、小学生くらいの女の子が立ってた。こんな時間にどうしたんだろうって思いながら窓を開けると 「弟を探して」  って消え入るような声で言うんだ。 「お父さんやお母さんはどうしたの?」  って聞いても、ただ俯きながら「弟を探して」さ。こんな時間に子どもだけってこともないだろう。どうやら親ともはぐれたらしい。眠気マナコを擦りながらも何とかしてやんなきゃ、って思ったね。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加