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 車を降りてみると、その女の子は寒いのに白のブラウスに紺のスカートっていう、どえらい薄着だよ。これじゃあ可哀想だってんで、俺は後部座席に放り出してあったスタジャンをその子に羽織らせてやったんだ。色白で髪の長い可愛い子だったよ。  まだ暗い中、一緒に弟や親を探して歩いたんだけど。どうにも一人きりなのが気になってね、「どこではぐれたの?」とか、いろいろと訊いてみても、ただ「弟を探して」さ。  その間もずっと伏し目がちで、なんだか遣り切れなくなっちまったっけ。  そのうち女の子は急に足を止めると、俯いたまま沖合の波消しブロックのほうをぴたりと指さした。で、そのまま微動だにしないんだ。その姿にはどこか鬼気迫るものがあったよ。  俺はウェットスーツを着込んでたから、そのまま海に飛び込んだ。そうしなきゃいけないと思ったんだ。  波消しブロックは岸から二十メートルほど沖に並んでるんだが、なにせ辺りは潮の流れが激しい。ようやく女の子が指さしたあたりに辿り着くと、幼い男の子がフジツボだらけのブロックに引っ掛かってた。  唇は紫になっているし、顔色はほとんど真っ白だ。それでも微かに息はある。とにかく一刻も早く海から上げてやろうと、男の子を脇に抱えて、溺れないようにしながら岸に向かって泳いだよ。  たしか近くの漁港の前には交番があったはずだ。  事態は一刻を争う。岸につくと、その子を抱えたまま全力疾走で浜を駆け上がり、放り込むようにして車に乗せると、エンジンを掛けて力一杯アクセルを踏み込んだ。  砂利にハンドルを取られて車が大きく左右にスライドするわ、シャーシにガンガン小石がぶつかるわで夜中だってのにやたらと騒々しかったのだけは覚えてるな。
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