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「ほんと、いいとこが空いててよかったあ」
「そうだねえ。他の所が満室だったおかげねえ」
いい宿の見つかったことを改めて喜ぶA君達でしたが、ふと、ある疑問が頭を過ったんですね。
「でも、こんないいとこなのに、なんで部屋空いてたんだろ?」
「ていうか、わたし達の他に宿泊客いないんじゃない?」
そうなんです。明らかにいい旅館のはずなのに、自分達以外に誰もお客がいるような気配がないんです。一部屋だけ空いてたとかならまだしも、他の所は全部混んでていっぱいなのに、なんだか妙な話ですよね。
「おかしいねえ。何か欠点でもあるのかな? それとも、何か事件か事故でもあったとか?」
そう言われてみれば、一つ気になったことがあります。
女将さんにしろ仲居さんにしろ、どうにも暗い印象を受けるんです。表情も沈んでいて笑顔一つ浮かべないし、目も虚ろで、声もなんだか消え入りそうなか細いものなんです。
「女将さん達のあの感じ、やっぱり何かあったんだよ、きっと」
「でもまあ、他にお客さんいないんなら、むしろ貸し切りみたいででラッキーってもんじゃないの」
なんだか不審な点は残るものの、今さらキャンセルするわけにもいかないですし、もともと二人は前向きな性格でしたんで、その環境を逆手にとってせっかくの旅行を楽しむことにしました。
「じゃ、さっそくお風呂にでも行こうか? これはお風呂もなかなかスゴいんじゃないの?」
なんて、期待しながら大浴場へ行くと、案の定、とっても大きくて立派なお風呂ですよ。檜の湯舟を使った室内風呂だけでなく、その奥から外に出れば、絶景をバックに露天風呂なんかもあったりなんかしてね。
ですが、B子さんが脱衣場で服を脱ぎ始めようとすると、浴場の方からなにやら水音が聞こえてくるんです。
浴場とは摺りガラスの引き戸で仕切られてるんで中の様子は見えないんですが、人間、長年聞いてきた生活音っていうのは、それが何をしている時の音なのかなんとなくわかるんですよね。
浴槽に浸かってザーっとお湯が床に溢れたり、桶に汲んだお湯をバシャーっと体にかける時のような、そんな誰かがお湯を使っている水音なんです。
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