8人が本棚に入れています
本棚に追加
ユウリは話を続けた。
その後ユウリがメイから聞いた話では、中学3年の受験生になった頃、
メイが部屋の片付けをしていた時、キツネのポシェットを部屋の片隅で見つけたようだ。
船に乗った時にツアーで一緒にいたおじさんに買ってもらったお気に入りのポシェットだ。
背中のチャックを開けた時に、そこからマモルからもらったメモが出てきた。それを見つけた時のカオルの話す高揚感を、マモルは鮮明に覚えていた。
懐かしく思い出したカオルはそこに書いてある住所に手紙を書いたのだ。
電話番号も書いてあったが、その頃の多くの女の子がそうであるように、電話で話すことを恥ずかしがったので迷わず手紙を書くことを選んだのだ。
カオルが手紙を書いた柿生の宛先に、すでにマモルは住んではいなかった。
マモルは大学を出ると、実家のある高知へ戻り、大手企業に就職していたのだ。
その手紙は、当時いたアパートのそばにある郵便局に、マモルが転居届けを出していたために、その転送期間内にマモルはそれを実家で受け取ることができた。
カオルが手紙に書いた内容は、あの時に私にメモを渡すことを忘れていたこと、何年もメモの存在も忘れていたこと、当時受験生だということ、私には内緒にしてほしいこと等だ。
それからカオルはマモルと文通を始めた。文通とはいえ、圧倒的にカオルからの手紙の方が多かった。
受験勉強がどれほど辛くても、それをマモルに手紙で伝えることがカオルの励みになっていたのだ。
マモルの誕生日がクリスマスに近く、せめてその時だけでも会いたいというカオルの思いを叶えることは出来なかったが、クリスマスには電話で30分程、何気ない会話を楽しんだ。
マモルはクリスマスに間に合うように大きなクマのぬいぐるみをカオルに送っていた。
カオルは喜び、その日から寝るときはいつもそのクマと一緒に寝るようになった。
そして受験の前日の手紙にカオルはこう書いて、勉強の気晴らしにポストに投函するために外へ出た。
「明日の受験が終わったら会いたい」と。
それは、カオルの合格発表の声を聞いた後、マモルが都内に出ることで実現した。
桜が咲くにはまだ早い時期だったが、2人で上野動物園を散歩してパンダも見た。
それからカオルとマモルはその日、お互いの好意を確認しあった。
それから文通と電話という形での遠距離愛が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!