第1章

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 おれの言葉をどこまで理解したかどうかわからないが、部長はもうウンザリだという表情を浮かべて言った。 「きょうはもういいから、病院に行ってみてもらいなさい」  その言葉に従い病院に来たのはいいが、いったい何科に行けばいいのか。まずは受付で相談してみる。  受付の若い女は、カブトを被ったおれの姿に驚いたようだったが、一旦、奥にひっこみ、ほかの人たちにいろいろ相談しているようだった。  五分ほど待たされた後、女が言った。 「一応、メンタルな問題も含まれているようですから、精神科がよろしいかと……」   「ほう、立派なカブトですね。義経のものかな?」  診察室に入るなり、医者は言った。たぶん五十代だろうが、いかにもエネルギーに満ちあふれ、人生が楽しくてならないという表情をしている。  カブトが脱げなくて困っているんです、と説明するおれをニコニコ嬉しそうに見つめている。 「脱げなくなった理由に心当たりはありませんか?」  あるわけがない。 「いつ、どこでカブトを被ったのかさえ分からないんです」 「それはさほど問題ではないでしょう。たぶん酒を飲んで酔っぱらった時に街をフラフラと歩いていた。骨董屋かなんかに飾られてあるカブトを見つけた。思わず購入し、そのまま被ったまま帰宅し、眠ってしまった。まあ、そんなとこです」 「そうかもしれません」 「でも、そんなことはどうでもいいんです。なぜカブトを被りたいと思ったのか。そして、なぜ脱げないか、その原因を考えることが大切です」と医者は力説する。 「なぜなんでしょう?」 「あなたはカブトを被ることで自分を強く見せようと思ったのでしょう」  確かに強く見えるかもしれない。だが、それ以上にヘンに見えることだろう。 「普段のあなたは、大人しく、自分の気持ちや意見をはっきり言えないタイプではありませんか。それは、すべて自分に自信がないからです。あなたはそんな自分に満足できていない。もっと強く、雄々しい人間に生まれ変わりたいと思っている。たとえば、戦国武将にように……。だからカブトを被ったのです」 「では、脱げないのはなぜでしょう?」  医者は、そんな当たり前のことを聞くなんて、という風にわざと驚いてみせた。
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