第1章

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「せっかく、新しい自分に変身できたのに、元の弱い自分に戻りたいと誰が思うことでしょう? あなたは本気で脱ごうとしていなんですよ。意識の上では脱ごうとしている。でも、無意識では絶対に脱ぎたくと思っている。だから脱げないのです」  そして、心配気なおれを励ますように、 「今のままでいいんじゃないですか。せっかく新しい自分になれたんですよ。あなたは男らしく、自信いっぱいに生きられる第二の人生を今、歩み始めたんです。おめでとう!」と医者はおれに握手を求めてくる。  新しい自分? 本当だろうか?   この医者の言うことは、どうも理屈っぽい。いかにも頭で考えた、という感じで、いまいち信用できない。  でも、医者の話を聞いているうちに、カブトを被ったままでこの先の人生を送ることも悪くないんじゃないかとも思い始めた。  というのも、医者自身もカブトを被っているからだ。カブトのおかげで、この医者のように、堂々と自分の意見を言えるようになるなら、それもいいではないか。  ちなみに、医者のカブトは水牛のような角がついていて、おれの義経とは違うタイプだ。  誰のカブトなのかは後で大森にでも聞いておこう。(了)
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